「バカ塗りの娘」に続いて、青森県を舞台にした映画「じょっぱり」が公開されました。主人公の花田ミキさんは、弘前女学校で学びを終えた後、自立した女性としての生き方を目指し看護の道に進んだ女性です。
まだワクチンのない時代に八戸市内で発生したポリオ(小児麻痺)の集団感染が起こった際、八戸赤十字病院の担当医からの要請を受けて治療法を求めて上京し、日赤を通じてGHQに出向き、オーストラリアで治療効果を上げていた「ケニー療法」の資料を入手します。そして八戸赤十字病院に戻り、毎日ケニー療法を続けます。治療効果が上げると、今度は一般向けにこの療法をわかりやすく紹介するために新聞記事でケニー療法紹介し、この療法を広めていったのです。
この映画の芯となっているのが、彼女が青森県庁初の衛生部看護係の係長として取り組んだ「もったら殺すな運動」です。「もったら」とは、青森県の方言で妊娠したらの意味で、全国最悪の青森県の乳児死亡率の改善のために掲げられた標語です。そして地域の住民の意識改革に取り組んだだけではなく、僻地に保健婦を送るために、男性中心で旧態依然であった県庁を動かし、「派遣保健婦制度」を導入し、全町村の半分以下の保健婦不在から、保健婦不在が皆無となったという実績を残しました。
男社会の中で女性として、経済問題をはじめ課題の多かった青森県の保健衛生状況を改善していくことは当時としては大変なことだったでしょう。しかし、青森県知事など志のある人々の協力を得ながら、看護師を社会的に専門職として認められるために、青森県立高等看護学院(現在の青森県立保健大学)の開校に尽力したことなどをみても彼女の功績はもっと多くの人に知られるべきだと思います。
花田ミキさんは、死後、自分の遺体を医学生のために献体していますが、その申請書類に「弘前大学白菊会」とありました。この「弘前大学白菊会」の設立に尽力したのが、弘前大学の医学部教授であった河西達夫先生です。河西先生はすでに召天されていますが、生前親しくお交わりし、その設立時のご苦労を直接伺っていたので、そのシーンは私にとっては特別な感慨がありました。
映画「じょっぱり」で、青森県の保健衛生の分野で大きな功績を残した女性をどのような切り口で紹介するのかと興味がありましたが、映画では老年の花田ミキが偏屈な女性(木野花)として描かれ、十代でシングルマザーとなった小泉ちさと(王林)との関係づくりから始まり、コミカルで明るいタッチで物語が展開していくので、私が抱いていた映画の予想を良い意味で裏切りました。さらに回想という形で花田ミキの生涯が描かれ、かけがえのないいのちを守るために彼女の残した功績を知ることができる物語の展開となっています。
キャストは、主人公の花田ミキにベテラン女優の木野花さん、さらに青森県出身の人気タレント王林さんをシングルマザーの小泉ちさと役として登場させていので、最初は話題づくりのキャストかと思いましたが、五十嵐匠監督は、単なる話題づくりの配役ではなく、「もったら殺すな運動」の今日的メッセージを伝える役割としてシングルマザーの小泉ちさとを映画「じょっぱり」の中に登場させているのです。
この映画を見た若い方々の『X(ツイッター)』の書き込みを見ると、この二人の会話のシーンで多くの方々が涙したと書き込んでいます。多くの方々に見ていただきたい、すばらしい映画なのですが、上映館が圧倒的に少ないのがとても残念です。
「今、私たちは鏡にぼんやり映るものを見ていますが、そのときには顔と顔を合わせて見ることになります。今、私は一部分しか知りませんが、そのときには、私が完全に知られているのと同じように、私も完全に知ることになります。こういうわけで、いつまでも残るのは信仰と希望と愛、これら三つです。その中で一番すぐれているのは愛です。」